1 三為物件を買うのは止めておきましょう
あなたの購入したマンションは三為取引ではないですか?その仕組みとデメリットを説明します。
私のところに相談に来られる収益不動産の購入者の方の大半が、「三為取引」「三為売買」「三為契約」という三為物件を買っています。
「第三者のためにする契約」(民法537条)を用いた取引であるため、略して「三為」(さんため)と不動産業界では呼ばれています。
「三為」とは何かというと、要するに、「買取転売」です。
三為は、収益不動産取引のかなりの件数に上ると思われますが、私のところに相談に来られたオーナーさんで自分が三為で買ったことを分かっている方は皆無です。
後述するとおり、三為の仕組みは、弁護士ですら正しく理解していないこともあるくらいに相当にマニアックですが、法律の素人の方には、結論だけをまず言っておきます。
三為は、かなりのケースで、価格が膨らんで、高値掴みさせられますので、避けましょう。
市場価格よりも2倍から3倍も乖離していることが珍しくありません。
当然、投資用ローンの額もこの水増しされた物件価格を基準にするため、購入者は、購入した時点から著しいオーバーローンを負わされることになります。
業者の転売利益が乗っかっているからです。
三為のメリットはないこともないですが、買うことのデメリットを上回ることは相当レアだと思われ、不動産の初心者であれば、まず避けるべきです。
普通に市場価格に従って「仲介」(媒介)で買えば良いです。
では「三為」かどうかをどうやって見分けるのか?
その物件の登記情報を見て、前の所有者と売買契約書の売主が一致しているか否かを見れば良いです。
一致しない場合が三為です。
三為の場合、売買契約書の末尾の「特約条項」の欄や重要事項説明書に、次のような文章が入っています。
「本件不動産の所有権は、現在の登記名義人が所有しているので、本件不動産の所有権を移転する売主の義務については、売主が売買代金全額を受領した時に、その履行を引き受けた本件不動産の登記名義人である所有者が、買主に対しその所有権を直接移転する方法で履行するものとする。」
どうでしょうか、あなたも三為で買ってませんか?
以下、三為の仕組みや問題点を説明しますが、難解なので興味がある方だけお読み下さい。
2 三為の仕組み
平成16年の不動産登記法の改正により、単純な転売による中間省略登記ができなくなりました。
なお、宅建業者の転売自体は違法ではありません。
しかし、転売で中間省略登記をしたい。
そこで、同じような効果を得られるように考えられたのが、「第三者のためにする契約」と「他人物売買契約」という2つの契約を利用した三為取引です。
不動産業者は、先行して不動産の登記名義人と、多くの場合、市場価格よりも低廉な価格で不動産を買い取る売買契約を締結しています。
そして、業者は、買受人に多くの場合市場価格を上回る高値で売却することで、転売利益を得ます。
普通にこの2回の売買契約を締結・決済したのでは、業者は、在庫を抱えるリスクがあり、2回の登記手続費用や課税の負担が生じます。
そこで、先行の売買契約を、「第三者のためにする契約」にします。
この契約に、所有権を宅建業者が指定する者(当該宅建業者を含む)に移転させること(後行の売買契約において他人物売買の原則禁止〔宅建業法33条の2〕の適用除外を受けるためには、先行契約の特約に下線部を入れることが必要です〔宅建業法施行規則15条の6・4号〕)及び最終の買受人の指定があるまでは(先行の売買契約の売買代金が支払われても)、現登記名義人に留保する、という特約をつけます。
次に、後行の売買契約を「他人物売買契約」にします。
この契約に、買受人に登記名義人から直接所有権の移転を受ける受益の意思表示をさせる、という特約をつけます(なお、三者間で売主から最終の買主への直接移転登記が可能な方法は、他にも、後行の契約を「買主の地位の譲渡契約」とする方法もありますが、最初の売主と最終の買主に他方の売買契約の内容を知られてしまうので、利用されていません)。
3 三為の問題点
宅建業者は、何故このような複雑な取引形態をとるのか。
それは、普通の仲介(媒介)取引だと、宅建業法46条で媒介報酬の上限(400万円を超える場合3%+6万円)が設定されているところ、三為取引であれば、仲介ではないので、この報酬上限を遙かに超える転売利益が得られるうえに、在庫を抱えるリスクを極力回避できるからです。
業者は在庫を抱えるリスクを回避するため、最終の買受人を確実に見つけられるように、先行の売買契約において、売買代金の決済日を3、4ヶ月も先(普通の媒介取引では1ヶ月程度です)に設定したり、買受人を見つける不動産投資セミナーを開催したりします。
そして、最終の買受人が見つかり次第、先行の売買契約と後行の売買契約の決済を一挙に行い、所有者から最終の買受人へ、業者を経由せず、ストレートに所有権移転を行うのです。
こうして、業者は、在庫を抱えることなく、仲介(媒介)取引であれば、法定上限までしか得られない報酬を遙かに超える転売利益を得られるというわけです。
この方式のメリット(宅建業者のうまみ)は、先行契約の売主及び後行契約の買主いずれにも、他方の売買契約の代金を知られないことにあります(上述した買主の地位の譲渡方式がとられない理由がこれです)。
なお、介在する業者は1社とは限らず、2社以上介在して転売利益を重ねて最終の買主に高値つかみさせているケースも珍しくないです。
しかしながら、このような取引は、全体としてみれば、宅建業法46条の潜脱のきらいがあることは否定できません。
とくに、実需ではなく、賃料収入(インカムゲイン)や売却益(キャピタルゲイン)を目的とする投資用不動産の場合は、宅建業者と売主・買主の利害が相反しています。
所有者及び最終の買主に、市場価格との差額分を負担させて転売利益を得る典型例が、「介入行為」「サヤ抜き」です。
これは、最初、物件所有者から売却の媒介を依頼されたのに、思いのほか高値で購入する意思がある購入希望者がいると知った途端に、自分が買主として介入し、かねて見つけていた購入希望者に高値で転売するような行為です。
できるだけ高く売りたい所有者と、できる限り安く買いたい買主と、その双方と利益が相反していますので、宅建業法31条1項で宅建業者に課された信義誠実義務(契約相手に限らない)に違反するされています(同項はサヤ抜きを禁ずるために規定された模様)。
三為取引も、先行契約の売主及び後行契約の買主双方に一方の契約の売買価格を秘し、在庫を抱えることなく転売する点で、「介入行為」「サヤ抜き」に似ています。
福岡高判平成24年3月13日(2012WLJPCA03136002)も、顧客がその所有する不動産を売却する際に、宅建業者が、媒介ではなく直接買い受ける取引においては、媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があり、これを具備しない場合には、宅建業者は、売買契約による取引ではなく、媒介契約による取引に止めるべき義務がある旨判示し、宅建業者に対して媒介報酬を超える転売利益の損害賠償を認めています(最高裁で確定)。
この判示だけを見るなら、三為契約においても、媒介契約によらない合理的根拠を具備すべきですが、なかなか思い当たりません。ただし、この事案は、売買契約締結が転売契約締結と同一日に行われている点が、普通の三為契約とは異なっており、普通の三為契約は、買い取りをしてから転売先を探すので、「媒介契約による取引に止めるべき義務」が発生する前提事実がありません。この違いは大きいように思います。
以上のとおり、三為取引というのは、中間省略登記が不動産登記法で禁じられてもなお、業者の転売利益を目的に考えられた手法というのが、実態です。
なお、三為では、物件所有者も、安く買いたたかれるという損害がありますが、
“マンションを売りませんか?”と言ってくる業者を相手にしなければ良いだけです。
その業者は、まず三為業者でしょう。
売りたくなったら、普通に地元や信頼できる宅建業者に仲介(媒介)を依頼して下さい。
以上、投資家目線から、三為物件は止めておくべき理由を述べました。
三為自体に違法性があるわけではないので、これ自体をなんとかするのは難しいですが、三為をやっている業者は、「ふかし行為」など結構そのほかにも危ないことをしています。
これまで、そういった業者の弱点を突いて、買い戻しまでさせたこともありますので、お困りの方はご相談をいただければと思います。
♯不動産投資
♯収益不動産
♯投資用マンション
♯三為取引
♯三為
2023/3/29 公開