“サブリースなので家賃が保証されます。安定した収入が見込めます!”というのは、投資用マンションの勧誘の常套句でしょう。
「サブリース」の説明は、インターネットを検索すれば、簡単に見つかります。
ここでは、サブリースの一般的なメリット、デメリットの説明ではなく、収益不動産の実務を通じた弁護士の目線で、
「サブリースなど利用する必要はない」
ということを、以下の3点にそって説明します。
1 サブリースの仕組み
2 サブリースのデメリットを上回るメリットは無い
3 知られていないサブリースの大きな問題(オーナーに不利な契約)
1 サブリースの仕組み
いわゆる「サブリース」は「家賃保証」「空室保証」などとも呼ばれますが、法的にはただ賃貸借契約が2件あるだけです。法律上の「保証」とは意味が違います。
①サブリース業者がオーナー(所有者)から物件を借りる(賃貸借契約[マスターリース])、
②サブリース業者が入居者に又貸しをする(転貸借契約[サブリース])。
この2件の契約を総称した仕組そのものをサブリースとも呼んでいます。
中には転貸借が重ねられている再転貸借(サブサブリース)もあります。
サブリースは、何のことはない、サブリース業者が賃借人なので、入居者の有無にかかわらず、賃料が支払われるという当たり前のことにすぎません。
2 サブリースのデメリットを上回るメリットは無い
結論から先にいうと、相当な高齢等の理由で賃貸管理能力に極めて乏しい方以外には、
サブリースを利用する必要は無いでしょう。
つまり、就労世代には、サブリースなど必要ありません。
というか、サブリース物件など買うべきではありません。
かといって、自主管理は面倒ですから、普通の賃貸管理の委任契約(集金代行契約などとも呼ばれていますが法的には委任契約です)をすれば良いのです。
なお、サブリースの問題といっても、少し前に社会問題になった、アパート建築目的の数十年単位の一括借り上げスキームは、毛色が違うのでここでは取り上げません。
区分所有マンションを対象に、具体的になぜサブリース物件を買うべきではないか、をオーナー目線から説明します。
① 収益性が落ちる
第一に、サブリース物件は、賃料がサブリース業者によって10%~20%も中抜きされますが、普通の賃貸管理の委任契約の報酬は賃料等の3%~5%が相場です。
サブリース業者は自前の有利な契約書で契約をしますので、当然、礼金、更新料など入りませんし、空室が出た場合の免責期間まで設けている業者もいます(サブリースの意味が無い酷い話です)。
第二に、収益物件の価格の評価は、収益還元評価によります(賃料額×利回り:不動産鑑定評価基準で、専有部分が賃貸されている場合の鑑定評価額は、実質賃料に基づく収益価格を標準とするものとされています)。
賃貸管理の委任契約の報酬は、賃料等の3~5%程度で、賃料自体は変わりません。
サブリースは、賃料そのものを減額しますので、「理論的」に当然に物件価格も下がります。
第三に、解約しようとしても、賃料数ヶ月分から1年以上は下らない立退料が必要となります(事案によります)。月々数万円、中には赤字(そもそも投資の名に値しませんが、生命保険代わりなどという言葉に引っかかる人が後を絶ちません)の収支で運用しているのに、コツコツ積んだ利益が一気に吹き飛びます。
② 借地借家法の適用を受ける
オーナーとサブリース業者間の契約は、法的には通常の賃貸借契約なので、借地借家法の適用を受けます。借地借家法は借主が強く保護される法律です。買主よりも知識・経験・資金的に遥かに優越するサブリース業者が保護されるのはおかしな話で、個人的には異論のあるところですが、最高裁判例もあるためこれを前提にします。
借地借家法の適用を受けると、解約には、正当事由が必要となります。立退料は正当事由の補完事由であるため、立退料だけ用意すれば一方的に解約できるのではありません。
そして、あくどいのが、サブリース業者のマスターリース契約書の多くに、賃料半年分を払えば即時に期間内解約ができる、などという、明らかな「ウソ」が平気で書かれていることです。
サブリース新法によって変わってきてはいますが、新法前の契約書でも、買主が前オーナーの契約の賃貸人の地位を当然承継します(民法605条の2)ので、今でも有効です。
借地借家法の適用を受けますので、契約書に賃料の減額をしないと書かれていても無効であり、周辺の賃料相場等に沿って、将来的には賃料は適宜減額されていきます。
③ 融資のリスク
上述したリスクは、融資を出す金融機関側から見ても、そのまま、物件評価を下げる事情、融資金の回収のリスクに繋がる事情ですので、融資にもマイナスです。
もちろん、金融機関によって与信審査・物件評価の方法はまちまちですので、サブリースでも融資する金融機関はありますが、はっきり、サブリースには融資しない方針の金融機関もあります。
なぜなら、物件評価は収益還元法ですから、販売業者の自社(または関連会社)マスターリースで高額賃料の賃貸借契約をこしらえて、容易に物件評価を水増し、その融資を高く引っ張る危険があります。
金融機関からすれば要警戒であることは自明のことです。
融資しない金融機関があるということは、その分購入者が減るということです。
このような様々なデメリットから、サブリース物件はサブリースが付いていない物件に比べ数十%も売却価格が落ちることが普通です。
では、サブリースをつけるメリットがこのデメリットを上回るものか。
を考えますと、メリットは空室リスクを回避できることです。
その他の管理業務の手間の省略は、賃貸管理の委任契約でも同じように実現できます。
サブリース業者はボランティアではなく、利益を上げることが至上命題の営利企業です。
何故空室リスクを負ってでも利益を出せるのか。
それは、もともと一定の賃貸需要が見込める物件だからです。
つまり、あなたのその物件はサブリース無しでもきちんと探せば借り手が付くから大丈夫ですよ、ということです。
意図的に最初から逆ザヤにしている詐欺まがいの業者は別ですが、真っ当なサブリース業者は、空室が続く物件に賃料を支払い続けて赤字を垂れ流す真似はしません。
空室が出れば、熱心に入居者を探しますし、なかなか空室が埋まらなければ、埋まるまで賃料を減額し、それに応じてオーナーとのマスターリース賃料も減額します。それでも収支が改善しそうもなければ、借主からの解約には借地借家法の制限はないため、マスターリースを解約して、その物件から撤退できます。
一般にサブリース物件の入居率は通常の賃貸管理物件よりも数%高いですが、それはもともと賃貸需要の見込める物件しかマスターリースしないなどの上述の理由によるものであって、サブリースだけに、通常の賃貸管理契約では利用できない何か特殊で秘密の入居者探索能力などがあるわけではありません(何かがあるなら教えて欲しいです)。
入居者探しについては、レインズ等の全国の宅建業者が利用する不動産ポータルサイトがあり、通常の賃貸管理契約でも利用できます。
以上のとおりで、サブリースのメリットが、前述したサブリースのデメリットを上回るといえるのか、
少し考えれば自ずと答えは出るでしょう。
3 知られていないサブリースの大きな問題(オーナーに不利な契約)
経済的なメリット・デメリットとは別の観点で、通常あまり知られていない、サブリースを利用すべきではない大きな理由があります。
それは、多くのサブリース業者が、国土交通省等が定めている標準契約書ではなく、業者特有の業者に有利な契約書を使用し、
オーナーに不利な扱いをしていることです。
この不公平さは別記事で詳しく解説しますが、一つ具体例を挙げると、
サブリース業者は、サブリースの内容、転借人の情報を秘匿します。
素朴な感情として、自分の物件なのに、誰が入居しているか分からないって、おかしいと思いませんか?
私は絶対に嫌です。
そして、これは単なる感情論ではなく、現実的に法律違反が行われていることに気が付かない危険があるということです。現に、マスターリースを解除して転借人の情報を得たところ、勝手に再転貸に出されていたことが発覚したケースがありました(別記事で詳しく解説します)。
サブリース業者は当たり前のように転借人の情報を隠しますが、別に当たり前ではありません。
民法613条1項は明確に転借人がオーナーに対して直接賃料支払等の義務を負うことを規定し、オーナーの転借人に対する権利行使を認めています。
つまり、オーナーが転借人(入居者)を知っていることが大前提です。
民法第613条1項
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
例えば、先日も、とあるサブリース業者に入居者が誰かを聞いたところ、
「サブリースなので教えられません!キリッ(`・ω・´) 」
と堂々と拒否されました。
何の理由にもなっていません。
わざわざ契約書に書いている業者もいます(何をそんなに隠したがるのか、却って怪しいです)。
以上、投資家目線から、サブリース物件を買うべきではない理由を述べてきましたが、不幸にもすでに購入してしまった場合はなんとか解約したいものです。
私もこれまでも様々策を使ってサブリース(正確にはマスターリース)の解除を手掛け、何件か成功してきましたので、お困りの方はご相談をいただければと思います。
なお、巷間、サブリース解除交渉やその成功率を謳っている会社があるようですが、通常、
サブリース解除交渉は、法律事件ですので、弁護士以外は扱うことができません。
実際、過去に、立ち退き交渉が弁護士法72条違反の非弁行為とされた事案(最判平成22年7月20日刑集64巻5号793頁)もありますので、お気をつけください。
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2023/3/28 公開